【小説 » 外国人作家 アーカイブ】
サロメ
08/01/14 (月) 22:11

ワイルド「サロメ」岩波文庫
満足度:★★★★
王女サロメが踊りの褒美に所望したのは、預言者ヨカナーンの首だった。
「オーブリー・ビアズリー 世紀末、異端の画家」という本を読んだら、改めてオスカー・ワイルドの「サロメ」を読みたくなりました。以前「サロメの乳母の話」を読んでいたので、だいたいのストーリーは知っていたんですが、戯曲で旧仮名づかいだとまた雰囲気が違いますねぇ。でも、七つのヴェイルの踊りがたった一行で片付けられてしまうのは不満です。これがあるから戯曲はずるい。そういえば昔、ケン・ラッセルの「サロメ」を観ようと思ったことがあったんですが、当時はまだいたいけな小娘だった私は、あまりにも妖しそうだったんで腰が引けちゃったんですよね(^^ゞ サロメの蠱惑的なダンスは観とくべきだったなぁ。
この岩波文庫版にはビアズリー(ビアズレー)の挿絵が収録されています。英訳版の挿絵を頼まれたビアズリーですが、描き直しを命じられた絵がいくつか。例えば、「サロメの化粧 一」が最初の画稿、「サロメの化粧 二」が描き直したもの。前述の「オーブリー・ビアズリー」の解説によると、描き直ししてもしなくてもエロいんですけどぉ。「エロディアス登場」も描き直しをしてるんですが、無花果の葉が描き足されたほうの絵は収録されてなくて残念。
性的暗示があちこちに散りばめられているビアズリーの絵は、妖しさ満点。サロメの小悪魔的なイメージもさらに倍!って感じです。最も印象に残るのは、口絵の「お前の口に口づけしたよ」ですね。境界線上にある危うさに惹かれます。

ビアズリーの絵を愉しむには文庫では小さすぎるかも・・・と思ってたら、本屋でこんな本を発見。日夏耿之介訳「院曲サロメ」。真っ赤な表紙がヨカナーンの血に見える~。

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銀のキス
07/10/28 (日) 23:38

アネット・カーティス・クラウス「銀のキス」徳間書店
満足度:★★★★
母は重い病で闘病中、仕事と看病で疲れた父は娘と話をする余裕もない。その上、親友が遠くへ転居することに。もうすぐ17歳になるゾーイは孤独を感じていた。そんなある夜、ゾーイは銀色の髪の少年サイモンと出会い、互いに惹かれ合うようになる。
ロマンティックで切ないラブストーリーであり、生きることの意味を考えさせられる作品でした。
ゾーイは普通の女子高生ですが、サイモンの正体は闇の住人、吸血鬼です。彼はゾーイ以上に孤独でした。300年もの間、人との関わりを避けながら、自分を吸血鬼にし、母を殺害した相手に復讐するためだけに生きてきたのです。
また、母親が死んだらつられて自分も死ぬと思っているゾーイと、死にたくても死ねないサイモン。異なる世界に生きながら、孤独を抱え、逆の意味で死を背負っている2人は、出会うべくして出会い、惹かれ合う運命だったのでしょう。
でも決して、似た者同士が傷を舐め合うのではありません。相手を見つめることで自分の中の壁を乗り越えていく・・・その辺の気持ちの変化が、とても丁寧に綴られているんです。
主人公たちが美男美女なので、月光の下の出会いも、官能的な銀のキスも、せつないラストも、映画のワンシーンのようでした。
ヴァンパイアものとしても、ところどころに吸血鬼の習性を織り交ぜてあり、押さえるところはきっちり押さえてあります。不死身の吸血鬼が傍にいたら、病気を治してもらえると考えてしまうものですが、それをしないことの説明にも説得力がありました。大切な人の母親を吸血鬼にしたくないと思う、サイモンの優しさもいいですね。
さらには、ゾーイの住む街では連続殺人事件が発生していたり、サイモンの仇が19世紀末のロンドンを震撼させた某事件に関わっていたりと、ミステリファンが喜ぶツボまで用意してあるんです。
さほど多くないページ数ですが、様々な要素が盛り込まれているので、いろいろな角度から楽しめました。対象がヤングアダルトだけに、テーマもしっかりしてて分かりやすくなってます。
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新版 指輪物語10 追補編
07/01/13 (土) 01:18

J.R.R.トールキン「新版 指輪物語10 追補編」評論社文庫
満足度:★★★★
王たちの年代記、西方諸国年代記、ホビット家系表、暦や言葉、固有名詞便覧など。
「ホビットの冒険」読了後、続けて読みました。「ホビットの冒険」と「指輪物語」のさらなる接点を見つけてびっくり。ギムリはグローイン(13人のドワーフの1人)の、レゴラスは森のエルフ王の、それぞれ息子だったんですね。そして、死人うらない師があの人物だったとは。小人たちだけで旅をさせるなんて、ガンダルフも意地が悪いなーなんて思ってたのですが、「急ぎの仕事」の内容にようやく納得できました。
「アラゴルンとアルウェンの物語」は、他のどのエピソードよりロマンティックで美しい。「その一部」となってますが、できることなら全部読みたい。
それにしても、ホビット庄で使用されている暦や種族ごとのことばなど、小説世界の設定をこれほどまでに細かく考えていたなんて。トールキンの頭の中では、奥深い世界が広がっていたんですね。
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ホビットの冒険 上・下
07/01/13 (土) 00:48

J.R.R.トールキン「ホビットの冒険 上・下」岩波少年文庫
満足度:★★★★
竜に奪われたドワーフの宝を取り戻すため、ホビットのビルボ・バギンズは魔法使いのガンダルフや13人のドワーフたちと旅に出る。
最終目的はドワーフの父祖の地と宝をぶんどった竜(スマウグ)を倒し、宝を取り戻すことですが、竜のいるはなれ山までの旅の途中、トロル、ゴブリン、クモと戦ったり、エルロンドやビヨルン、ゴクリ、森のエルフ王と出会ったりと、様々な冒険をすることになります。注目すべきは、ビルボはこの旅によって、つらぬき丸、指輪、くさりかたびらを手にすること。それらが後にビルボからフロドへ渡されるんだと思うと、感慨深いものがありました。
ドワーフは13人もいる(人数が多過ぎて、トーリン以外は誰が誰なのかさっぱり覚えられなかった)というのに、揃いも揃ってダメダメ。あっさり敵に捕まってしまってばかり。ビルボも最初のうちこそ守られるだけの存在でしたが、次第にドワーフを助ける頼もしい存在と変わっていきます。ガンダルフが別行動することになり、頼る人がいなくなったこともあるでしょうが、何よりも指輪を手に入れたことが大きい。「忍びの者」として大活躍です。ところで、ガンダルフがこの旅でビルボが役に立つと言い切っていた根拠は、一体何だったのでしょう? ガンダルフが長い間交流のなかったビルボの何を知っていたのか、不思議でたまりませんでした。
ゴクリが「いとしいしと」と呼ぶのは、「指輪物語」では指輪のことですが、「ホビットの冒険」ではゴクリ自身のことなんですね。失った指輪の存在の大きさに気づいて、「いとしい」順位が変わったとか?
この岩波少年文庫版では、月光文字の掲載を省いてしまってることが非常に残念でした。月光文字も見たかったなぁ。
久々のレヴューに思いっきり手間取ってしまいましたが、以上のように今年の初読みは「ホビットの冒険」でした~。
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満月と血とキスと
05/08/31 (水) 18:17

シャーレイン・ハリス「満月と血とキスと」集英社文庫
評価:★★★
ウエイトレスのスーキーはヴァンパイアが店に現れるのを待っていた。美人でスタイルも抜群なのに、ある障害のせいで恋人ができない。でも、ヴァンパイアが相手なら・・・。そんなある日、受け持ちテーブルにヴァンパイアのビルが座り、小躍りするスーキー。一方、町では連続殺人事件が発生。被害者たちにはヴァンパイアに噛まれた跡が。
ヴァンパイアの彼にテレパスの彼女、そして殺人事件。ホラーにもSFにもミステリにもなりそうですが、これはラヴストーリーでしょう。
ヴァンパイアの彼って魅力的だけど、付き合うとなるとかなり大変みたい。デートは夜限定。食事に関わる問題。それにヴァンパイア同士の付き合いもなかなか難しいものがあるようです。それでも、真剣にスーキーと付き合うことを考えてくれたり、スーキーのコンプレックスである「障害」を「才能」と言ってくれたりするビルの優しさが良かったなぁ。その一方で、スーキーへの愛ゆえにとは言え、残酷にもなれるところはやはりヴァンパイア。でも、スーキーの危機に駆けつけてくれないのはじれったい~。せっかく超人的な力があっても、いざっていう時に側に居てくれなくちゃダメじゃん。自分は何度もスーキーに窮地を救われているのに。
殺人事件のほうは、ヴァンパイアが疑われる一方で、被害者たちと交際歴のあるスーキーの兄・ジェイソンも容疑者にされてしまい、スーキーの悩みは深まるばかり。でも私は、殆どミステリだと意識することなく、気楽に読んでしまいました。
ところで、ビルは刑事のベルフラー(ベルフラー本人というよりベルフラー家)と何かしら因縁があるようです。続編で明らかになるのでしょうか?(訳者あとがきによると、アメリカでは3作目まで刊行している模様) 他にただの人間ではないあの人や、ヴァンパイアのエリックの存在も気になります。さて、スーキーは普通の幸せを手にすることは出来るのでしょうか?(何だか普通の幸せからどんどん遠ざかってるような気がするんですけどぉ・・・^^;)
あっそうそう、ババの正体ってロックの王様と言われているあの歌手?
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トムは真夜中の庭で
05/05/30 (月) 12:20

フィリパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」岩波少年文庫
評価:★★★★
弟のはしかがうつらないようにとグウェンおばさんのところに預けられたトムは、遊び相手もなく退屈しきっていた。そんな時、ホールの大時計が夜中に13時を打つのを聞き、裏口へのドアを開けてみると、昼間はなかったはずの庭園が・・・。その庭園でトムはハティという少女と出会い、二人は友達になる。
花が咲き乱れ、木の葉が風にそよぎ、小鳥たちがさえずり、子供たちがのびのびと遊ぶ・・・庭という空間には、童心を刺激する何かがありそう。バーネット「秘密の花園」や梨木香歩「裏庭」も庭が印象的ですし、児童書と庭とは相性が良い組み合わせなんですね。そこに、無かったはずのものが突如として現れる不思議さや、家族と離れてる寂しさを共有する少年と少女の時を超えた出会いが加わったら、わくわくする気持ちを抑えるなんてどうやっても無理です。
魂と魂の触れ合いによる心温まるラストは、本当に感動的でした。人の本質は「時」に左右されるものではないのですね。どんなに年を重ねても子供の心を忘れない大人でありたいと思わせる作品です。
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六つのルンペルシュティルツキン物語
05/03/29 (火) 21:36

ヴィヴィアン・ヴァンデ・ヴェルデ「六つのルンペルシュティルツキン物語」創元ブックランド
評価:★★★
アメリカのファンタジー作家が、グリム童話『ルンペルシュティルツキン』の矛盾を正しつつ、新たな息吹を吹き込んだ6編。
『ルンペルシュティルツキン(日本では「ルンペルシュティルツヒェン」と表記されることが多いようです)』の辻褄の合わない部分に疑問を抱いていた著者が、自ら納得できる物語を書くことに。普通の人なら1編で満足してしまうところですが、そこは作家。パターンを変えて6編も書き上げたのです。ある話のルンペルシュティルツキンはトロル、ある話ではエルフ、また別の話では女性、中にはルンペルシュティルツキンが登場しない話まで。ルンペルシュティルツキンがバラエティに富んだ設定であるばかりでなく、娘や王様の性格も様々。主要登場人物のキャラが変われば、物語全体の雰囲気もがらりと変わるもの。元のストーリーから大きく逸脱することなく、きちんと辻褄を合わせ、著者のオリジナリティも加わっています。面白い試みだと思いますが、私がオリジナルを知らなかった(^^ゞ 固定したイメージがなかったために、すんなり受け入れることができてしまったのです。多少なりともこの物語のイメージを持っていたなら、オリジナルとのギャップや意外な展開をもっと楽しめたはず。それが残念でなりません。
6編中好きな話は、「藁を金に」。これが一番ファンタジー的で綺麗でした。(ルンペルシュティルツキンもかっこいい♪)
しかし、「ルンペルシュティルツキン」にしても「ルンペルシュティルツヒェン」にしても、日本人には言いにくい名前ですね。子供に語って聞かせるには難し過ぎます。いまいちこの物語がメジャーになりきれなかったのは、そのあたりが理由でしょうか。

参考:オリジナルの『ルンペルシュティルツキン』を読むにはやっぱり「グリム童話集」。私がいつか読んでみたいと思っているのがこちら。
グリム兄弟「初版グリム童話集―ベスト・セレクション」白水社
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幽霊たち
05/02/28 (月) 16:59


ポール・オースター「幽霊たち」新潮文庫
評価:★★★★
私立探偵ブルーは、ホワイトから奇妙な調査を依頼される。それは、ブラックを見張り、報告書を作成するというもの。こうしてブルーは、毎日ホワイトが用意した部屋からブラックを見張ることとなった。
「シティ・オヴ・グラス」(レヴュー)同様、ひたすら誰かを監視し続け、そして何も起きません。でも、ブルーはクィンとは違って、自分のしていることに疑問を抱くようになるので、「シティ・オヴ・グラス」よりミステリらしい展開が見られます。とは言っても、謎解きそのものに重要性があるとは感じられません。オースターはミステリを書こうとしたわけではなく、主張したいことを表現する手段としてミステリの形を借りただけ、という印象を受けました。
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シティ・オヴ・グラス
05/02/28 (月) 16:48


ポール・オースター「シティ・オヴ・グラス」角川文庫
評価:★★★★
作家クィンのもとにかかってきた、一本の間違い電話が全ての始まりだった。私立探偵ポール・オースターと間違われたクィンは、オースターになりすまし、ある男を尾行する仕事を引き受ける。しかし、事件らしい事件など何も起こらないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
本書はポール・オースターの「ニューヨーク三部作」の第一作。以下「幽霊たち」「鍵のかかった部屋」と続きますが、作品同士に関連はありません。
元々ダニエル・クィンの中には、ペンネームのウィリアム・ウィルソン、作品の主人公のマックス・ワークという分身が存在していました。そこに、ポール・オースターという新しい分身が加わります。オースターとしてのクィンは、当初刺激的な出来事を期待していたはず。しかし、刺激的なことが何も無いにもかかわらず、監視することにどんどんのめり込んでいくのです。何が彼を駆り立てたのか・・・等、読めば読むほど謎ばかりが増え、何一つ解明されることなくジ・エンド。読者は置いてきぼりを食らってしまいます。謎はきっちり解明されないと嫌な私なのに、この作品はそれでいいと思えました。確かに手の届くところにあったものが、どんどん不確かな存在に変わっていく、そんな不安感が生み出す不思議な余韻に魅了されてしまったからでしょう。
ミステリのようでミステリではない。でも非常にミステリアスな作品です。
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古い骨
05/02/27 (日) 22:13

アーロン・エルキンズ「古い骨」ハヤカワ・ミステリ文庫
評価:★★★★★
「重要な問題について話し合う」と北フランスの館に親族を呼び寄せた老富豪が、親族会議の前に不慮の死を遂げる。館の地下からは白骨が発見され、親族の一人が毒殺される。フランスを訪問中だった人類学教授ギデオン・オリヴァーは、発見された古い骨を手がかりに事件の真相を探る。スケルトン探偵シリーズ第4作。
ただでさえ、複雑な人間関係なのに、いきなり親族が集まっているシーンになり、誰が誰なのか把握するのが大変でした。老富豪を中心とした血縁関係ではあるのですが、親族同士さえお互いどういう関係になってるのかよく分かってないようで、家系図を書くシーンもあるほど。(登場人物一覧の隣に、その家系図も載せて欲しかった) 事件の幕切れは複雑な人間関係にふさわしいものでした。
人間関係さえクリアできればこっちのもの。ギデオン・オリヴァーは、骨から死者の生前の年齢、体格、病気まで言い当て、殺人事件の真相まで解明してしまう、スケルトン探偵です。死に立てほやほやの死体なら殺人の痕跡もまだ発見しやすそう(探偵役が検屍官のミステリもありますし)ですが、骨だけから手がかりを見つけるのは困難な作業となりそうです。しかし、骨から分かる情報って意外に多いものなのですね。ギデオン独自の捜査方法が興味深かったです。
ギデオンまでもが何者かに狙われるなど緊張感が続く中、ギデオンと奥さんのラブラブぶりが目立つのですが、口説き文句が
きみの長く、愛らしい、見事な仙椎脊椎内溝が・・・(P.256)
だなんて。もうちょっと違うところを褒めて欲しいのが女心だと思うのですが(^^ゞ 二人が出会うきっかけになったと思われる「暗い森」を早く読みたいです。
国も時代も設定も何もかも違うのに、そこはかとなく感じられたのは、クリスティー的な雰囲気。「灰色の脳細胞」や「ポアロ」の文字を見たときには、意味もなくガッツポーズ! あぁでも、人間関係の複雑さから言ったら、横溝正史風かな。
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