【小説 » 日本人作家(な行) アーカイブ】
眠る石
08/01/02 (水) 14:50

中野美代子「眠る石 奇譚十五夜」ハルキ文庫
満足度:★★★
古今東西の石造物にまつわる幻想譚。
第一夜 ロロ・ジョングラン寺院
第二夜 スクロヴェーニ礼拝堂
第三夜 楼蘭東北仏塔
第四夜 ボロブドゥール円壇
第五夜 ビビ・ハヌム廟
第六夜 泉州蕃仏寺
第七夜 ウェストミンスター・アベイ
第八夜 シャトー・ド・ポリシー
第九夜 龍門石窟奉先寺
第十夜 カリヤーンの塔
第十一夜 アンコール・ワット第一回廊
第十二夜 ベゼクリク千仏洞
第十三夜 晋江摩尼教草庵
第十四夜 ザナドゥー夢幻閣
第十五夜 プリヤ・カン寺院
全くの小説というより、遺跡や寺院にまつわる摩訶不思議な伝説に著者が味付けしたもの、なのかな?
章題を見ても分かるように、宗教と関係の深いものばかり。思いや願いを託されて造られてるんでしょうね。今は静かに佇むだけの石の建造物に、過去の人々のドラマを感じずにはいられません。
馴染みのない場所が殆どだったので、ひと通り読み終えてからネットで検索しまくり、再度感慨に耽りました。実物が見る機会があったら、更に胸に迫るものもありそうです。が、なかなか行けるものでもないので、写真で我慢我慢。それでも、ちょっとした観光気分に浸れます。
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僕僕先生
07/02/04 (日) 00:38

仁木英之「僕僕先生」新潮社
満足度:★★★★
働かず、何も学ばず、そして何もなさず。親の脛を齧り日々を無為に過ごしていた王弁は、道教趣味の父の使いで、供物を持って黄土山に住まう仙人を訪ねる。と、姿を現したのは、僕僕と名乗る美少女だった。第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
何事にもやる気のない王弁のおとぼけ加減と、挿画ののほほ~んとした感じが妙にマッチしてました。
仙骨はないが仙縁はありそうだ(仙人となる素質はゼロに近いが、仙人に近づける資格を生まれつき持っている)、ということで仙人の弟子となった王弁は、師匠の僕僕とともに旅に出ます。雲の上に胡坐をかいている僕僕、その雲を引っ張って歩く王弁。道中、釣りをしたり温泉に入ったり。なんとものんびりした旅じゃあありませんか。
都の司馬承禎の館で童子たちにもらった瑣納(ラッパ)は、後々大きな役割を果たすことになるのですが、これは本来、どういった力を持つ代物なんでしょう? 僕僕が言いかけてやめ、結局は語られることなく終わってしまったので、どうにも気になって仕方ありません。(余談ですが、童子たちが「ぴるぴると話す」という表現も可愛いかったなぁ)
それから、犬頭人身の商人から入手した、見た目はみすぼらしいけど由緒正しいという馬。なんとかその背に乗ろうと悪戦苦闘する王弁が、可笑しいったらありません。「最高の作戦」には大爆笑。しかしここで、あれだけやる気の無かった王弁がやる気を見せていることに、はたと気づきました。小さな変化がなんだか微笑ましい。そして、この馬の正体がまたびっくり! いやぁ、まさかここに登場するとはねぇ。他にも山海経に出てくる人種や神仙などが賑やかに登場しては、楽しませてくれます。
この話のメインは、仙人と人間の恋物語なのでしょう(多分)。心の中を見透かされてる王弁が、僕僕の手のひらの上で転がされっぱなしってこともあるんですが、あまりべたべたしてないのは私としては好印象でした。
僕僕の過去については仄めかす程度。瑣納のこともそうだけど、言いそうで言わないのはすっきりしなくて気持ちが悪い。
何かってぇと酒飲んでばっかりですが、仙人って酒好きが多いんでしょうか? 酒飲みの仙人といえば、南條竹則氏の「酒仙」(そういえばこの作品も日本ファンタジーノベル大賞受賞作でしたっけ)とか「遊仙譜」なんてのもありますね。
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そろそろくる
06/07/20 (木) 17:47

中島たい子「そろそろくる」集英社
評価:★★★★
イラストレーター・岩崎秀子は、ある時期になると決まって無性にイライラしたり、ひどく落ち込んだりしていた。PMSと正面から向き合おうとする30代女性の姿をユーモラスに描いた作品。
PMS(Premenstrual Syndrome/月経前症候群)とは、排卵から月経までの時期に現れる身体的・精神的不快な症状のこと。具体的な症状としては、頭痛、乳房が張る、下腹部が張る、甘い物が食べたくなる、肌が荒れる、憂鬱になる、イライラする、怒りっぽくなる、など。女性なら身に覚えのある人も多いのではないでしょうか。本書の主人公・秀子の場合、精神的な症状が強く出るタイプで、生理前は精神状態が最悪。でも、生理が終わってしまえば楽天的。傍から見たら二重人格?と疑われそうなほどですが、これはPMSの典型的な症状なんです。友人の話からPMSという病気を知った秀子は、本から情報を得て、運動をするなどセルフケアを始めることに。
新しい恋人が出来、展覧会用の絵を描き始め、前向きに進もうとしている彼女を阻むのは、にっくきPMS。恋人への不信感が高まったり、絵が描けなくなったり。毎月訪れるPMSの波によって前向きと後ろ向きとを繰り返していますが、決して後退しているわけではないようです。僅かですが着実に前には進んでいる模様。何事も逃げずに真正面からぶち当たることは大切ですね。
実は私もPMS治療中の身です。(しつこい頭痛の原因もPMSだったようで、治療のため漢方と安定剤を飲むようになってからかなり軽減されましたよ) ですから、秀子の心が揺れる様子は決して他人事ではなく、ものすごく共感できました。
「しょうがないでしょっ、文句ならホルモンに言ってよ!」
というPMS仲間・ニンニンの台詞は最高! きっとPMSに悩む女性全てが同じことを思ってるはずだし、言ってみたい台詞です。
ただただPMSの辛さばかりが強調されてると読んでて嫌になってしまいますが、前作「漢方小説」同様、ユーモラスな語り口で淡々と綴られています。この辺の読ませ方は巧いですね。ちょっと不思議に思ったのは、PMSに悩む女性が3人も登場しているのに、誰も病院に行ってないんですね。症状が重い場合は、無理せずに医師に相談するという選択肢があることを提示してもよかったのでは? それこそ、「漢方小説」に登場した漢方医を再登場させるとか。
毎月不快な症状に悩んでる女性は勿論、ぜひとも男性に読んでいただきたい! 女性はこんなにも大変なんだってこと、少しは理解して欲しいものです。
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魔法探偵
05/04/30 (土) 17:08

南條竹則「魔法探偵」集英社
評価:★★★
吾輩の名は鈴木大切。自称詩人。裕福な家で育つが株で大損、現在はしながい“猫探偵”をしている。詩人クラブの会合に飛び入り参加したことで、捜し物に使う“魔法杖”と美しい助手・雪乃を得た。それからというもの、不思議な依頼が度々舞い込むようになる。
「魔法探偵」と言っても、ミステリを期待してはいけません。依頼人がこの世の者でないこともあり、魔法を使わざるを得ないこともしばしば。「探偵」よりも「魔法」のほうに比重があるようです。
読んでいて、浮かんでくる景色は何故かセピア色。なので、時代設定はてっきり昭和だとばかり思っていました。デジタル・カメラが出てきたことで、はじめて平成だったのかと気付いた次第。そもそも今の時代に「吾輩」などと言う人間は、某ミュージシャンくらいじゃなかろうか。でも、魔法で過去の幻影を再生することが何度かあるので、そのあたりがセピア色の原因なのでしょう。
過去の幻影によりノスタルジーを誘う懐古主義ファンタジーの側面と、詩の衰退を嘆きつつも、現代の詩人たちにエールを送る側面とを持つ作品だと思います。
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いつか、ふたりは二匹
05/03/28 (月) 16:05

西澤保彦「いつか、ふたりは二匹」ミステリーランド
評価:★★★
道を歩いていた女子児童3人が不審者に襲われ、1人が意識不明の重体に。目撃証言により、不審者の運転手と昨年秋に起きた誘拐未遂事件の容疑者との特徴が一致した。猫(ジェニイ)に意識が乗り移る能力を持った少年・智己は、憧れの少女が犯人の標的になっているのでは・・・と、ジェニイになって事件を調べ始める。
猫が冒険する可愛い話なのかと思ったら、期待していたものとは違ってました。
登場人物たちのエゴにムカッ! 自業自得としか言いようがありません。
猫好きとしても、お世辞にも楽しいとは言えません。勝手に体を乗っ取られた上、人間の勝手な思惑で危険な目に遭わされてしまうなんて、可哀想なジェニイ!
気になったのは、警察の存在が希薄なのこと。捜査してる風には見えませんし、パトロールを強化してるようにも見えず。何より不審車内の指紋をきちんと調べたのでしょうか?
ピーターについてはバレバレですね。でも、ピーターはどの時点でジェニイの正体に気付いたのでしょう? もしかして、はじめから知っていて、共に過ごす時間を楽しんでた?
ポール・ギャリコの「ジェニイ」へのオマージュとのことですが、ジェニイとピーターからは、正太郎とサスケ(柴田よしき「猫探偵正太郎シリーズ」より)を連想してしまいました。
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ランチタイム・ブルー
05/03/07 (月) 23:28

永井するみ「ランチタイム・ブルー」集英社文庫
評価:★★★
30歳を目前にして一生続けられる仕事を・・・とインテリア・コーディネーターに転職した知鶴は、仕事でもプライベートでも事件と遭遇してしまう。「ランチタイム・ブルー」「カラフル」「ハーネス」「フィトンチッド」「ビルト・イン」「ムービング」「ウイークエンド・ハウス」「ビスケット」の8編を収録した連作短編集。
謎解きがメインというよりは、仕事と恋愛に一所懸命な女性を描くことがメインであるように感じました。事件の多くがささいな日常の謎であることも、その一因かもしれません。
失敗を繰り返しながらも仕事の面白さを知っていく知鶴を見ていると、ついつい応援したくなります。筋肉痛が2日後(しかも、筋肉痛の原因が犬の散歩)だとか、美容院でカットしたらイメージと違うと心の中でぼやくところなどなど、「そうそう」「あるある」と声に出して言いそうになるくらい共感できるシーンが沢山ありました。
忘れてはいけないのが、知鶴の上司である広瀬貴子。彼女はとっても魅力的な女性なんです。オフィスではバリバリ仕事をこなし、部下を気遣う上司。ところが、「ウィークエンド・ハウス」で見せたプライベートな顔は、普段は見ることができない可愛らしさがあって、新鮮でした。他の編でちょっと怖い顔も見せるんですが、それを差し引いても一番好きなキャラクターです。オンとオフの切り替えの上手な人間は、魅力的に見えるんですね。
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転・送・密・室 神麻嗣子の超能力事件簿
05/02/28 (月) 23:14

西澤保彦「転・送・密・室 神麻嗣子の超能力事件簿」講談社文庫
評価:★★★★★
チョーモンインシリーズ第5弾となる短編集。
収録作:「現場有在証明」「転・送・密・室」「幻視路」「神余響子的憂鬱」「<擬態>密室」「神麻嗣子的日常」
新キャラも登場し、これから何かが起きそうな予感。(いや、既に起きてるかも!)
「神余響子的憂鬱」で、<チョーモンイン>日本支部が初お目見え。何処に在るんだろうと思ってましたが、そうですか、そんなところに。で、エージェント候補は何処から連れてくるんでしょう? 一般公募はしてなさそうだし。スカウト?
「神麻嗣子的日常」は、嗣子ちゃんによる家事指南。いつも手抜きしまくりの私は、主婦として恥ずかしい・・・。
クライマックスに向けて、本格的に伏線が張られ始めてます。好きなシリーズなので、いつか終わる時が来るのだと思うと寂しい。保科さん、能解さん、嗣子ちゃん、聡子さんが微妙なバランスを保っている四角関係が好きなんです。ずっとこのままの状態でって訳にはいきませんかねぇ。
「現場有在証明」「転・送・密・室」「幻視路」は、「メフィスト」で読んだことがあるみたい。ストーリーは綺麗さっぱり忘れてたくせに、「現場有在証明」の挿画だけは鮮明に覚えてました。能解さんのパジャマ姿に嗣子ちゃんの浴衣姿♪ マニアにはたまんないっす(=v=)ムフフ♪(って、私は何者なんだ)
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漢方小説
05/02/24 (木) 22:20

中島たい子「漢方小説」集英社
評価:★★★★
川波みのり、31歳、独身。元カレの結婚話を聞きながら牡蠣を食べた日から、胃の調子がおかしくなる。胃薬を飲んだ途端全身がふるえだし、救急車で病院へ運ばれる。病院を転々としてもふるえの原因が分からず、行き着いた先は漢方診療所だった。
ストレスに対抗する手段として、漢方や東洋医学の可能性を提示している点がとても興味深いです。原因不明の体調不良に悩む人に、漢方入門書としておすすめしたい一冊。(ちなみに、漢方薬は漢方医だけではなく、普通の病院でも処方してもらえます)
みのりも、その友人も、皆病んでます。が、みのりは漢方について勉強を始め、自分の体(病気)と向き合おうとしています。友人たちもそれぞれのやり方で乗り越えようとしています。前向きな姿勢というものは、躓いたり転んだりしながらも一所懸命生きてるんだなぁと、好ましく感じさせるものですね。
30代独身女性の姿にリアリティがあり、ユーモラスな文章で綴った面白い作品だと思います。ただ、こじんまり纏まってしまったかな。
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被害者は誰?
05/01/28 (金) 22:54

貫井徳郎「被害者は誰?」講談社ノベルス
評価:★★★
頭脳明晰、容姿端麗なベストセラー作家・吉祥院慶彦が、安楽椅子探偵として活躍する連作短編集。
容疑者の手記から被害者を特定する「被害者は誰?」。不倫現場を目撃され脅迫されている男が、脅迫者を特定しようとする「目撃者は誰?」。吉祥院自身がかつて遭遇した事件を小説に仕立て、桂島に登場人物の誰が吉祥院なのかを当てさせようとする「探偵は誰?」。ぼくが入院した先輩を見舞い、事件の話をしていると・・・「名探偵は誰?」。
4編に共通して登場するのは、尊大な態度の名探偵・吉祥院と、捜査一課の刑事でありながら下僕のようなワトソン役に甘んじている桂島の、先輩後輩コンビ。どこかで聞いた名前だと思ったら、「「ABC」殺人事件」の「連鎖する数字」にもこのコンビが登場してましたね。
頭脳も容姿も名声もお金も手にしている吉祥院なのですが、あまり魅力を感じませんでした。美形の名探偵なんて目新しくないし、性格に難有り過ぎ。
「謎を解決するには愛が必要なんだ」(P.42)
などという恥ずかしい台詞はさらっと言ってのける吉祥院。でもあんたに必要なのは、他人、特に後輩への愛ですから。残念!
ひねくれた性格の名探偵に相応しく、作品の方もひねりが加えられています。(ちょっとネタバレ→)
いつも吉祥院に虐げられ可愛そうな桂島くんですが、読者にとって一番の曲者は、実は彼かも。(←ここまで)
犯人探しではなく、被害者、目撃者、探偵を探すという趣向も、既にパット・マガーが実施済み(「
被害者を捜せ!」「
目撃者を捜せ!」「
探偵を捜せ!」)なので、二番煎じの感が拭えません。
でも、他の貫井作品とは違って軽いタッチなので、読みやすかったです。
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おりょう残夢抄
04/11/16 (火) 23:28

中津文彦「おりょう残夢抄」PHP文庫
坂本龍馬を暗殺したのは誰なのか? 龍馬の妻・おりょうが探る龍馬暗殺の真相。
下関で龍馬の訃報を聞いたおりょうは、長崎、土佐、京都、大阪、東京・・・と居所を変えながら、龍馬の同士たちや交流のあった者たちから話を聞くことになります。暗殺者は新撰組ではないか、或いは土佐の者では、見廻り組では・・・様々な証言を得て、おりょうはある結論に達しました。が、私はおりょうの出した解答には納得できません。もう一歩奥まで踏み込んで欲しかったんですが。探偵役(または著者)が調査をやめてしまうと、読者もそれに従わなければならず、なんとも歯痒い思いをさせられます。これは小説の短所ですね。
歴史ミステリとしてよりも、むしろ一人の女性を描いた時代小説として見た方が面白いかもしれません。大変革を迎えようとしている時代に、夫を失った女が生きていくのはどんなに大変だったことか。居場所や仕事を転々していることからも分かります。しかし、時には龍馬の人脈がおりょうを助けてくれることもあり、死後もなお龍馬の影を色濃く感じながら生きていたのでしょうね。
悔しいけど、あたしは女だから仇を討って差し上げることはできない。だけど、お前さんを斬ったのは誰なのか。それだけは何としても突き止めたいんだ。(P.80)
龍馬は11月15日の夜、近江屋で襲われ、16日未明に息を引き取ったとあります。私が本書を読み始めたのは11月15日夜で、読み終わった時には日付が16日に変わっていました。龍馬の命日(旧暦と新暦の違いはありますが)にこの本を手にした偶然に、自分でも驚きました。
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