【小説 » 日本人作家(さ行) アーカイブ】
草の輝き
08/03/26 (水) 21:30

佐伯一麦「草の輝き」集英社
満足度:★★★★★
会社を辞めて草木染の道へ進むことを選び、都会から山形へ移り住んだ竹丘柊子の修業の日々。
野の草や木を摘んで染色する作業を詳細に描いてあるので、とても興味深く読みました。実は本書を読む少し前に、私自身ハーブ染めを体験してるんです。賞味期限の切れたハーブティー用のローズマリーが大量に出てきて、捨てるのは勿体無いので布でも染めてみようかと。その際、作業の方法、媒染剤、専門用語等を調べたことが、本書を読む上で大いに役に立ちました。今どういう作業をしてるのか、何について説明しているのかするすると理解できましたから。興味を持ったことは挑戦しておくものですね。
私のお気に入りの登場人物は、柊子の師匠・佐山ふさです。齢70にして少女のようにお茶目なところを見せたかと思えば、発する言葉一つ一つに深みがあって、とても魅力的なおばあちゃんなのです。特に印象的な言葉は、草木塔の除幕式でのあいさつ。
「これからは草と遊んでいきたいと思います」(P.264)
長年、草と触れ合い、草を知り尽くし、草とともに人生を歩んできた師匠だからこその台詞。「遊ぶ」という言葉を選ぶところが粋だなぁ。
主人公・柊子のモデルは染織家である作者の奥様のようです。そして、柊子が知り合う二人の男性が作者の分身かと思われます。身近に染織の専門家がいて、経験談を聞くことができるのですから、柊子の修業の様子にリアリティがあるのも当然ですね。
作中、主人公は福島県内の医王寺や昭和村を訪れているんですが、地元民のくせに私は「乙和の椿」も「からむし」も見たことがありません。特に医王寺なんていつでも行けると思いながら、一度も行ったことないんですよね。地元ってそんなものよねー。
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お隣の魔法使い 永遠は三つめの願い
08/01/20 (日) 23:00

篠崎砂美「お隣の魔法使い 永遠は三つめの願い」GA文庫
満足度:★★★★★
メアリーの隣に住むツクツクさんの周囲は不思議でいっぱい。ファンタジックで季節感あふれる世界を描き出すシリーズの3作目。
春の風物詩「渡り猫」にやられましたっ! 紙袋に入った子猫が春一番に乗って旅に出るなんて~♪ それから、春を数える単位にも。花粉が飛び始める春先は憂鬱な季節ですが、こういう春ならいくつでも数えて歩きたい!! 和の文化に触れたメアリーの反応も楽しいし、あちらこちらに「不思議の国のアリス」の影が見え隠れしてるのもわくわくさせます。
このシリーズで密かに気になってるのは、ツクツクさんの紅茶棚。どんなお茶が並んでるのか実物を見てみたいです。更に欲を言うなら、ツクツクさんにお茶を淹れてもらいたいなぁ。いつも一緒にお茶してるメアリーが羨ましくてたまりません。
毎回最終話は、メアリーとツクツクさんの距離が縮まるのを実感できるようなエピソードがあるのですが、今回は特に微笑ましかったです。メアリーの成長も、ツクツクさんの中でメアリーの存在が大きくなってることも。今はボケ&ツッコミのいいコンビのこの二人、今後どうなるんでしょうね。変わらず仲の良い隣人のままなのか、それとも新たな展開が待ってるのか。ただ、時間軸的にはここで一区切りだそうで。3年間での表に出ていないエピソードも楽しみですが、その後の様子も気になります。どちらにしても、早く続編が読みたいなぁ。
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時をわたるキャラバン
08/01/12 (土) 21:44

新藤悦子「時をわたるキャラバン」東京書籍
満足度:★★★
雑誌のスタイリスト・友香は、他人には分からない匂いを嗅ぎとる鼻を持っている。ある日青山のギャラリーに立ち寄ると、古いトルコ絨毯から芳香が漂ってきた。いい匂いの絨毯を求めてイスタンブルを訪れた友香は、アリジャンという青年と出会う。彼の匂いに惹かれて後を追うと絨毯のオークションが行われていて、匂いのする絨毯が競りに出てくる。アリジャンはその絨毯を競り落とすが、謎の女性に盗まれてしまう。アリジャンと友香は女を追っているうちにいつしか時を越え、13世紀のコンスタンティノポリスへ。
友香の嗅覚はまるでセンサーです。絨毯や特別な男性の匂いばかりではなく、恋する者の匂い、敵の匂いまで嗅ぎ分けることができるんです。彼女はその特殊な嗅覚にコンプレックスを持ちつつも、思い切り使ってみたいと望んでもいました。絨毯に誘われて旅に出たことで、奇しくもその機会を得たわけです。普通は行くことのできない、遠い場所への旅となってしまいましたが。
1236年当時のトルコは第4次十字軍によってコンスタンティノープルを占領され、モンゴル帝国がヨーロッパにまで版図を広げようとしている混沌とした時代。友香たちは成り行きで絨毯をコンヤまで運ぶ旅の道連れになりますが、途中で災難に遭い、本来のルートなら通らないはずの街やキャラバンサライ(隊商宿)、世界遺産のカッパドキアを通ります。読者はトルコの歴史や風習を学びつつ、観光気分も味わえるというわけです。
さらに、コンプレックスやトラウマを乗り越える成長物語でもあり、対照的な二つの恋愛模様まで描くという盛り沢山な内容は、複雑な模様が織りあげられた絨毯のよう。トルコらしさも十分伝わってきましたが、やはり都合の良過ぎる展開であることは否めません。
絨毯を探すファンタジーと言えば、茂市久美子著「風の誘い」もいいですね。こちらの行先はインドです。
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サラシナ
07/10/17 (水) 15:32

柴田勝茂「サラシナ」あかね書房
満足度:★★★★★
中学生のサキは、種から丹精込めて育てていたひょうたんのつるを、うっかり切ってしまう。しかし、夢の中ではひょうたんがどんどん成長し、花が咲き実が成る。ある朝、不思議な感覚に襲われたサキは、ひょうたんを手に取ると体が浮き、過去の世界へ。
いろんな要素を併せ持っている作品で、一言で表すと「タイムトラベル恋愛歴史ファンタジー」。古代(奈良時代)と現代を行き来する少女が古代人の男と恋に落ち、羽衣伝説や竹芝伝説がモチーフの物語には歴史上の人物が多数登場します。
一番やられたーと思ったのは、マジックアイテムがひょうたんだということ。空を飛んだり、時間を移動したり、若い男女を引き合わせたり。すごい力を持ってるのにああいう形なんで、想像するととってもコミカル。
ストーリーの核となるのは、「更級日記」の初めのほうに出てくる竹芝伝説です。内親王と衛士が出奔し衛士の故郷・武蔵の国に行く、というあの話。「更級日記」には内親王の細かい心理描写なんてないので、出奔騒動を唐突に感じてたんですよね。それを補うべく、想いがシンクロしたことでサキが更級内親王の中に入ってしまうファンタジー的な設定や、内親王の祖母・藤原宮子の話を交えることによって、「駆け落ち」に至ります。
駆け落ち相手の不破麻呂は、ものすごく頼り甲斐のあるイイ男なんです。住む世界が違うと分かっていて想い合う、サキと不破麻呂の恋は甘酸っぱくて可愛いらしい。でも、現代に戻ったサキが彼以上の男を見つけるのは大変そう、不破麻呂にしても例の彼女の中にサキの面影探しちゃうんだろうなぁ、な~んてつい余計な心配をしてしまいます。あぁ、不破麻呂の子孫とサキが運命的な出会いしてくれないかなぁ。(なんだかすっかり妄想モードだな)
藤原仲麻呂、行基、吉備真備などといった歴史上の人物たちの中でも、特に興味を持ったのが藤原宮子。首皇子(後の聖武天皇)を出産後、心の病で長い間皇子に会うこともなく、病が癒え天皇になった息子と対面したのが実に36年ぶりとか。髪長姫の伝説もあったりと、調べたらなかなか面白そうな人物です。
宮子の看病に当たった玄昉の存在から、この少し後の時代にある人物が台頭することが示唆されているのも、思わずニヤリです。史実との絡みが絶妙で、歴史に興味を持ついいきっかけにもなると思います。
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東日流妖異変 龍の黙示録
05/09/15 (木) 21:53


篠田真由美「東日流妖異変 龍の黙示録」祥伝社文庫
評価:★★★
一通の手紙によって、奇祭「御還り祭」のことを知った龍緋比古は、単身青森へ飛ぶ。龍の身を案じるライラと透子もその後を追う。
龍の黙示録シリーズの2作目。どんどん強く勇ましくなっていきますね、透子は。今回の主役は間違いなく彼女でしょ。剣を手にした雄々しい姿は、「十二国記」の陽子かと見紛うばかり。元々誰かに守られるだけのか弱い女性ではなかった透子ですが、よりパワーアップしたようで、今後の活躍が期待されます。一方、龍の方はと言えば、あまりのヘタレっぷりにがっかり。さすがの彼も、唯一にして最大の弱点につけこまれると、これほどまでに使えなくなってしまうとは。龍の脆さを透子の強さが補い、二人はバランスの取れたいいパートナーになりそう。
青森とキリスト伝説は興味のあるモチーフではあるんですが、「東日流外三郡誌」や荒覇吐の神との絡みをもう少し掘り下げて欲しかったですね。それから、御還り様の存在意義が今一つしっくりきませんでした。何のために存在し、何をしようとしていたのか・・・。結局のところ何だったんですか、アレは?
あ、そうそう。前作で携帯電話の必要性を感じていた現代の吸血鬼は、今回から携帯電話を持つようになったんですね!
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龍の黙示録
05/08/04 (木) 22:28

篠田真由美「龍の黙示録」祥伝社文庫
評価:★★★★
失業中の柚ノ木透子は秘書の仕事を紹介され、北鎌倉にある著述家・龍緋比古の屋敷を訪ねる。明治以降『龍緋比古』という人物は三人いて、写真を見る限り同じ顔をしていることを知った透子の大学時代の先輩は、彼は不老不死の吸血鬼に違いない、と言う。一方東京では、吸血鬼出現の噂が流布していた。龍は噂の根拠を調査しようとする。「龍の黙示録」シリーズの1作目。
吸血鬼の起源をどう設定するか、それが読者を納得させられるか、は、作家の腕の見せどころです。本シリーズでは特定の宗教と関連付けていますが、これが大成功。予想以上に壮大な世界観が構築されていたのだと分かった時は驚きましたが、違和感なく受け入れることができました。
現代の吸血鬼は、携帯電話の必要性を感じるんですね。傷を負った吸血鬼の潜伏先にもびっくり。人の世界にしっかり馴染んでる彼らに対し、古い吸血鬼のイメージを持ち続ける私のほうが、ずっと頭が固いようです(^^ゞ それでもやっぱり、文明の利器は使わない存在であって欲しいです。
ヒロインの透子は、ハードボイルドの女性探偵のようだと思いました。透子はどんな問題でも人に頼らず自分の力で対処しようとしています。その一方で、心のどこかで誰かに頼りたいと思ってもいます。弱さを押し殺して自分の足で立ち続ける彼女が痛々しくて・・・。透子にも安心して心の鎧を解ける場所ができるといいのですが。
続編を読ませようと意図的に謎を残したままの作品もある中、話がきちんと完結し、謎が明らかにされているところに、著者の誠実さを感じます。
解説を書かれた恩田陸さんとの特別対談も収録されていて、こちらも読み応えがありました。恩田さんお気に入りの「龍の黙示録 東日流妖異変」が、間もなく文庫となって再登場の予定。早く読みたいです~。
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魔女の死んだ家
05/04/30 (土) 17:15

篠田真由美「魔女の死んだ家」ミステリーランド
評価:★★★★★
西洋館の美貌の女主人・小鷹狩都夜子が死んだ。彼女が死んだ部屋は内側から施錠してあり、同じ部屋の中で元婚約者・橘瑞雄がピストルを手にしたまま意識を失っていた。警察は都夜子殺害の犯人として橘を逮捕していた。事件から10年後。関係者が館に集められ、事件の真相が明らかにされる。
都夜子の子ども、彼女を慕って集っていた男たち、使用人などの証言をもとに、過去の事件の真実を探ることになります。それらの証言における、都夜子への印象や事件の解釈は、見事なまでにバラバラ。でも、都夜子が如何に小悪魔的な女性だったか伺い知ることが出来ます。妖艶な女主人としだれ桜が醸し出す妖しい雰囲気と、波津彬子さんのイラストがぴったり! 作品とイラストの相乗効果で、すっかり魅了させられました。しかしながら、雰囲気に呑まれて、本書が本格ミステリであることを忘れてはいけません。計算された伏線やトリックは、ジュヴナイルとは思えない質の高さです。そして、篠田ファンには嬉しい粋な計らいが!(彼もこの雰囲気にぴったり♪)
文章、トリック、雰囲気、登場人物、挿画、何もかも美しい作品。ちょうど桜の季節に本書を読めてラッキーでした。
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子どもの王様
05/04/30 (土) 17:12

殊能将之「子どもの王様」ミステリーランド
評価:★★★
ショウタは変身ヒーローものに憧れる小学生。同じ団地に住む親友・トモヤは学校を休みがちで、家で本ばかり読んでいるためかつくり話がうまい。ショウタは「子どもの王様」の話もトモヤのつくり話だと思っていたが、学校帰りに「子どもの王様」の風貌そのままの男を見かける。
母子家庭のショウタの家では、母が働く弁当工場の残り物を電子レンジで温めただけ、なんて夕食もよくあるようです。このうちのどれかは母の手料理にちがいない、と思うショウタが不憫で。出来合いのお惣菜がお袋の味とは寂しいことです。
その一方で、クラスメイトたちとテレビ番組の話で盛り上がるところなどは、私が子供の頃とちっとも変わっていません。
ヒーローに憧れるショウタは、子どもの王様からトモヤを守ろうと決意します。でも、その正義感はあまりにも真っ直ぐ過ぎました。こんなブラックな結末が待っているとは。幼い頃に父を亡くしたショウタには分からない心情が生んだ悲劇なんですね。それに、空想世界と現実との境界の曖昧さも感じます。非常に現代社会らしい事件なのかもしれません。
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影踏み鬼
05/03/31 (木) 19:00


翔田寛「影踏み鬼」双葉文庫
評価:★★★★★
5編の時代ミステリを収めた短編集。
一言で言うならば、人情の機微を巧みに描いた大人のミステリ、でした。
こつこつと積み重ねてきたものを、最後の最後にどっかーん!とひっくり返すところが著者の特長でしょうか。星一徹が卓袱台をひっくり返すかのように、気持ちいいくらいのどんでん返し。そして、心の闇を少しずつ引き出すような描写によって、ぞくりとさせられた後、どこか切ない思いが残るのです。
「藁屋の怪」は薄気味悪い話なのですが、衝撃度は大きいです。(ある意味、今年読んでおきたい作品かな)
最初の「影踏み鬼」と最後の「奈落闇恋乃道行」は、どちらも狂言に絡んだ事件。「本物の狂言作者」についての見解をそれぞれに述べてるんですが、最初の考えから、各編を通して人の喜怒哀楽を見つめるうちに、最後の考えに到達したように受け取れます。そう考えると、5編は独立した短編同士でありながら、1本の糸で繋がってるのではないかと思われてきます。
ところで、文庫の裏表紙に書いてある内容紹介はいかんなぁ。オチをばらしてるよ。
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図書館の神様
05/03/31 (木) 17:00

瀬尾まいこ「図書館の神様」マガジンハウス
評価:★★★★
海の近くにある鄙びた高校の講師となった清(きよ)は、部員がたった1人しかいない文芸部の顧問を命じられる。バレーボール部の顧問になることが目的で、講師になったというのに。
清は担当教科が国語なのに、文学について驚くほど無知・無関心。文芸部員の垣内君との絡みを見てると、どちらが教師でどちらが生徒か分かりません(笑) 清は垣内君との交流によって、本に対する興味を持つようになり、教育者としても成長を見せるようになります。「子が親を育てる」と言いますが、この場合は「生徒が教師を育てる」ですね。
垣内君だけでなく、弟・拓実の存在も大きいでしょう。拓実の底抜けの優しさが、太陽のように感じられます。
本書は癒しの文学。心に傷を持つ登場人物たちが、その傷を少しずつ修復していく様子が見られます。決して「癒し」を前面に押し出しているわけではない、さりげない「癒し」。
ただ、文章が淡々としてるせいなのか、人物描写があっさりし過ぎで、奥行きが感じられません。
それから、この学校には司書や図書委員はいないんでしょうか?
多少疑問は残るものの、総体的には、爽やかな読後感の作品です。
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