【小説 » 日本人作家(か行) アーカイブ】
蜜蜂の家
08/01/13 (日) 21:23

加藤幸子「蜜蜂の家」理論社
満足度:★★★★
彼と別れ、会社を辞め、母と訣別した平岡理枝は、東京を離れて山村の養蜂場『蜜蜂の家』で働くことに。自然と向き合うことで自分を見つめ直す、爽やかな青春小説。
父が自殺して以来、理枝と母との関係がぎくしゃくし続けていました。理枝の同僚は、元暴走族の青年や拒食症だった少女。経営者の女性も過去にいろいろあった様子。何かしら心に傷を抱えた人たちですが、互いに傷を舐め合うような甘ったれた関係では決してありません。彼らの適度な距離感は、私には心地よく感じました。
蜂の生態も養蜂の仕事も知らないことばかりですが、毎日毎日が新しいことの発見で面白くて仕方がない、という理枝にはとても共感できました。餌不足になると雄蜂は集団いじめにあい、寒い冬には蜂球を作って温め合い、春には新女王が立って分蜂する。良くできたシステムだと感心したり、蜂の社会も厳しいもんだと気の毒になったり。蜂についてもっともっと知りたくなってきます。
人間は蜂が仕事をしやすいよう、花のある場所を求めて巣箱を移動し、クマやスズメバチから守ります。『蜜蜂の家』ではその人専用の巣箱も与えられるので、蜂への愛着も一入ですね。ハウス農家が植物の受粉に蜂を用いる「ポリネーション」も興味深かったです。
しかし、どんな仕事も楽しいことばかりではないのが世の常。クマやスズメバチの襲撃以外にも、心無い者による悲しい事件が起き、時には辛い仕事もやらなければなりません。が、そんな苦労も収穫の喜びの前には吹き飛んでしまうんでしょうね。それに、山の澄んだ空気、季節毎に変わる風景、色彩豊かな花々の美しさと芳香、自然を全身で感じながら働いたら、心身ともに健康になるでしょうし。蜂飼いの仕事への興味がむくむくと膨らんでいきます。
ところで、経営者の貴勢さんがこの仕事を選んだきっかけは何だったんでしょう。見知らぬ土地で、以前とは全く違う仕事を始めるのは、並大抵の苦労ではなかったでしょうに。応援団ができるほどN(長野?)という土地に溶け込み、信頼を得てるのもすごいです。12年前の貴勢さんを主人公にした話(ジョージの視点でも可)も読んでみたいです。
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タルト・タタンの夢
08/01/13 (日) 11:51

近藤史恵「タルト・タタンの夢」創元クライム・クラブ
満足度:★★★★
小さなレストラン、ビストロ・パ・マルを舞台に、客が持ち込む食べ物にまつわる小さな謎を解き明かす連作短編集。
ビストロ・パ・マル、行ってみたーい!! 気取らずにフレンチが楽しめて、良心的な料金設定で、スタッフの雰囲気も良さそうだし、客の体調にも気を配ってくれて、何より料理が美味しそう。涎が出そうになるミステリは久しぶりです。
変わり者らしい三舟シェフは、料理の腕を揮うだけではなく、安楽椅子探偵としても活躍するのです。が、肝心のミステリに関してはちょーっと物足りないのが残念。謎解きよりも食を通して垣間見える人間模様を味わう、という趣向なんでしょうか。真夏の「理不尽な酔っぱらい」以外の全てに出てくる、隠れた人気メニュー「ヴァン・ショー」がいいですね。体も心も温まり、落ち着いてゆっくり話をする空気を醸し出します。後半は水戸黄門の印籠よろしく、ヴァン・ショーが出るだけでほっとする気分になってました。
7編の中では「割り切れないチョコレート」が一番好き。第一印象は良くなかったショコラティエのお兄さんの、プロ意識をしっかり持ってる職人っぽい雰囲気と表には出さない優しさにやられました。続編もあるようなので、また出て欲しいなぁ。
途中まで三舟シェフがオーナーシェフだと思い込んでいましたが、オーナーは別にいるようですね。どんな人なのか気になります。
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青い館の崩壊 ブルー・ローズ殺人事件
05/08/23 (火) 21:24

倉阪鬼一郎「青い館の崩壊 ブルー・ローズ殺人事件」講談社文庫
評価:★★★
幽霊が目撃される、不気味な青いマンション「ブルー・ローズ」。そこが吸血鬼原理主義者のアジトではないかという噂の真偽を確認するべく、ゴーストハンターは向かいのマンションに越してきた。そして、失踪したマンション所有者の著書から、「ブルー・ローズ」に隠された秘密を解明する。
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心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている
05/07/31 (日) 17:32

神永学「心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている」文芸社
評価:★★
斉藤八雲の左目は、死者の魂を見る赤い瞳。八雲の噂を聞き、小澤晴香が相談にやってくる。晴香の友人が、幽霊が出ると噂されている廃屋に行って以来、眠り続けるというのだ。
「探偵」の文字に惑わされて読みましたが、ミステリとは程遠く、ホラーというには全然怖くありません。
事件は非常に単純。キャラクターに惹かれるものはなし。スピード感はありますが、全体的に薄っぺらい印象です。おまけにツッコミどころが満載で、最後まで集中できず仕舞い。
ありがちな事件を何の捻りも加えずに書くのであれば、せめて人間の怖さを丁寧に描くことで「読ませて」欲しいものです。
短編が3本なので、安っぽい連続ドラマを見てるような感じでした。
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密室の鎮魂歌
05/06/07 (火) 15:20

岸田るり子「密室の鎮魂歌(レクイエム)」東京創元社
評価:★★★
女流画家の個展会場で一枚の絵を見た女が悲鳴をあげ、五年前に失踪した夫を女流画家が隠している、と突拍子もないことを言い始める。五年前の不可解な失踪事件の現場で、今度は密室殺人事件が。謎の手がかりは問題の絵『汝、レクイエムを聴け』の中に。第14回鮎川哲也賞受賞作。
絵に隠された謎、密室に次ぐ密室と、ミステリファンの気持ちを掴むのは上手いと思います。ですが、いざ謎が解明されたら、気持ちが一気に冷めてしまったんですよねぇ。目玉であるはずの密室トリックがお粗末でがっかり。全ての密室の見取り図が載っているのですが、果たしてそれらは必要だったのかと疑問になるほどです。謎解きらしい謎解きもしていない主人公の素人探偵ぶりも物足りなく、エキセントリックで我侭な女性キャラたちにも疲れました。本格ミステリというよりは、サスペンスドラマ。
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インディゴの夜
05/05/31 (火) 13:30

加藤実秋「インディゴの夜」ミステリ・フロンティア
評価:★★★★
「クラブみたいなハコで、DJやダンサーみたいな男の子が接客してくれるホストクラブがあればいいのに」
フリーライター・高原晶の思いつきの一言から始まったホストクラブ<club indigo>。売り上げは順調に伸びているが、ちょっとした事件に巻き込まれることも度々。その都度、晶やホストたちがにわか探偵団を結成し、事件解決に奔走する連作短編集。
本書はホスト版少年探偵団ですね。表題作「インディゴの夜」は第十回創元推理短編賞受賞作だけあって、本格ミステリとして読めるんですが、他の三作では謎解きの要素がぐっと減り、若者の風俗や裏社会をサスペンスタッチに描いてみた、といった感じになってしまってるんです。同じシリーズなのにどうしたことかと多少引っ掛かりを覚えたものの、テンポは良いし、勢いで読ませてしまう力はありました。このシリーズを続けるなら、むしろ本格ミステリに拘らないほうが、キャラクターの持ち味を活かせるかも。
個性豊かなホストたち(源氏名が笑える!)が揃った<club indigo>ですが、私はホストクラブとしてそれほど魅力を感じませんでした。たとえ料金が高かろうとも、<エルドラド>で空也と大人の会話を楽しみたい・・・と思うのは年のせいですかねぇ(^^ゞ 若いホストたちより、王道ホストの憂夜や空也のほうが気になっちゃって。事件を解決するより、謎めいた憂夜の過去を暴きたくて仕方ありません(笑)
ところで、作中には「晶」に「なぎさ」に「まりん」といった名前が出てくるんですが、著者は若竹七海ファン?
「感動はしたいんすよ。でも、カッコよくなきゃ。ベタはダサいでしょ?」(P.36)
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オテル モル
05/04/29 (金) 21:52

栗田有起「オテル モル」集英社
評価:★★★
オテル・ド・モル・ドルモン・ビアンは、会員制のビジネスホテル。お客様に提供したいものは、最高の眠り、そして、そこからみちびかれる最良の夢。本田希里はオテル史上まれに見る誘眠顔であることを見込まれ、フロント係として働くことになった。
悩みを抱え不眠症となった宿泊客たちの問題を解決する話(「踊り場ホテル」と「添い寝屋・りな子」を足したような)なのかとばかり思ってました。でも、このオテルは単に安眠できる環境を提供するだけ。不眠材料を解決するならその後はホテルに泊まる必要もなくなり、リピーター率88%となることもないんですよね。ただ、枕が変わっただけでも眠れない人が多いのに、宿泊する度に違った部屋を割り当てられたらますます落ち着かないと思うんですが。チェックインが日没後というのはまだしも、チェックアウトが日の出までというのもちょっと・・・。夏なんて、やっと眠れたと思ったらすぐチェックアウトの時間。安眠どころじゃありません。
というわけで、本書は新米フロント係・希里が抱える重い現実と、ちょっとした異空間であるオテルの対比を描いたもののようです。若い女性である主人公が、何故夜勤を希望したのかは納得です。希里の家庭事情、特に双子の妹・沙衣に関するエピソードは非常にヘヴィ。こんな環境に育ってきた希里の情緒が安定してることが、不思議で仕方ありません。
最後まで何を伝えたいのか不明な話でした。オテルでの仕事によって希里に目立った変化があったとは見えませんし、沙衣がオテルに宿泊したことに何の意味があるのかも分かりませんでした。オテルに癒し効果があるわけではない以上、10年も回復しなかったものが、一晩眠れたくらいでどうにかなるとは思えませんから。
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孔雀狂想曲
05/03/29 (火) 21:44

北森鴻「孔雀狂想曲」集英社文庫
評価:★★★★
下北沢の骨董品屋・雅蘭堂を舞台に、骨董品絡みの事件が起きる。店主の越名集治がそれらの謎を解明する連作短編集。
長い年月を人と過ごしてきた「物」には、思いが宿る。或いは、骨董的価値を見出され、欲望が渦巻く――骨董品の周りは様々な思惑が飛び交い、謎が生じやすい環境と言えます。骨董品を扱う仕事を生業とするには、物を見る目ばかりではなく、人を見る目も必要なんですね。そして、自分に自信がなくてはいけないし、どんなときでも冷静沈着でなければいけない。越名修治はそれらを兼ね備えた上、洞察力まで優れているのです。
越名vs犬塚の静かな闘いは読み応えがあります。特に「古九谷焼幻化」の緊張感は鳥肌が立ちそうなほど。いずれまた対決する日がくるのでしょう。どんな闘いを繰り広げるのか楽しみです。集治の兄・収一も気になります。電話だけでなく、ぜひご本人に登場願いたいものです。そうそう、同じ業界にいるはずの「狐」さんも登場するのかと期待していたのですが。結局、名前が出ることもありませんでした。ちょっとがっかりです。
大人たちの中で、安積の存在が浮いているように感じました。骨董品のことなど全く知らないド素人を配したかったのでしょうが、女子高生でなくても・・・。せめて20歳くらいのフリーターにして欲しかった。大人の強さ、弱さ、狡さ、寂しさ、大きさに浸っていると、安積が見事に茶化してくれるんですよねぇ。雰囲気ぶち壊し。
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『瑠璃城』殺人事件
05/02/28 (月) 23:10

北山猛邦「『瑠璃城』殺人事件」講談社ノベルス
評価:★★★
1989年 最果ての図書館(日本)、1243年 瑠璃城(フランス)、1916年 塹壕(ドイツXフランス前線)。時代も国も異なる場所で起きた不可能犯罪。何度生まれ変わっても殺し合うマリィとレイン。悪夢の連鎖を断ち切ることはできるのか。
<城>シリーズの2作目。とてもややこしい話ですが、一応、何をしたいのかは理解できました。でも、いざ感想を書くとなると、書きにくいことこの上ない。とりあえずは、不可能犯罪について。「瑠璃城」のトリックは分かりやす過ぎです。「塹壕」の事件にはあまり興味を引かれませんでした。「最果ての図書館」でのトリックが一番面白いかな。でも、6人の騎士、6本の呪われた短剣ときたなら、どの時代でも「6」へのこだわりを見せて欲しかった。
「生まれ変わり」を扱った作品には感動を覚えることが多いのですが、本書は特に胸に迫るようなものも無く。軸となるキャラクターに魅力を感じないせいでしょうか。
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ふにゅう
05/01/31 (月) 23:00

川端裕人「ふにゅう」新潮社
評価:★★★★★
父と子の関係にスポットを当てた短編集。「おっぱい」「デリパニ」「ゆすきとくんとゆすあしちゃん」「桜川エピキュリアン」「ギンヤンマ、再配置プロジェクト」の5編を収録。
まずタイトルが興味を惹きます。すぐに意味の分かるタイトルは「おっぱい」だけで、他はどういう意味なのか気になりました。特に表題の「ふにゅう」。文字で見ても音を聞いても脱力系。でも、ほわ~んとやわらかなイメージのするこの言葉の意味って何?(と思ってる時点で、まんまと著者の術中に陥ってるわけですな) 読んでみると、成程納得なタイトル。小説にとってタイトルの持つ意味の大きさを、改めて思い知らされました。
5編中最も好きな作品は、「ギンヤンマ、再配置プロジェクト」。泣きましたよ~。幼稚園児だった頃に母が入院したのですが、あの時の不安な気持ちが思い出されて・・・。
全て一人称で、丁寧に丁寧に父親の心の内を綴っています。男でも親でもないこの私が、男親の視点で子育てをしているような錯覚を覚えました。育児の楽しさ、つらさ、切なさを疑似体験した気分。
慣れない子育てを、不器用ながらも母親には負けない愛情で奮闘している父親の姿は、胸を打ちます。
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