【小説 » 日本人作家(あ行) アーカイブ】
絵描きの植田さん
07/12/27 (木) 18:26

いしいしんじ・作 植田真・絵「絵描きの植田さん」新潮文庫
満足度:★★★★★
2年前、事故で聴覚と恋人を失った絵描きの植田さんは、都会から遠く離れた高原に移り住む。凍てついた彼の心を溶かしたのは、村の人々の温かさと隣の山荘に越してきた少女・メリの真っ直ぐさだった。
冬になると氷雪に覆われてしまう、小さな村の静かな物語です。
特に印象深かったのは火祭りのシーン。場違いのようなトナカイの気ぐるみも、持ってきたメリやそれを着てくれたオシダさんの気持ちを考えるとじーんときます。その直後の立て札に貼られた祈りの紙で、さらに胸が一杯になりました。
オシダさんやメリとの交流によって、植田さんは心を閉ざしていた時には見えなかった物が見えるようになっていきます。植田さんの心の変化は絵にも如実に表れ、絵描きとしての幅もチャンスも広がることに。後半に登場する絵の視覚的効果は大きいです。描かれた動植物は美しく、モチーフにはある変化が。言葉で説明するより、目で見て感じることで、効果的に伝わりますね。
オシダさんの念願も叶いそうでよかった。(オシダさんのイメージが、何故だかローマイヤ先輩と重なってしまいました~)
雪の日にほかほかのミルクティーを飲んだ時のように、温かさが体内にじわぁっと広がっていく作品です。
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夢童子 転生奇譚集
07/01/13 (土) 22:10

天沼春樹「夢童子 転生奇譚集」パロル舎
満足度:★★★★
生まれ変わりを扱った「転生奇譚集」が4編(「天竺夜話」「一千年」「斑猫」「かげろう」)、夢にまつわる物語「夢童子」が4編(「夢鏡」「夢合戦」「傀儡師」「海女部」)の幻想短編集。
幻想小説だけあって、どの話も不思議に満ちていて、独特の余韻が残ります。
「転生奇譚集」は3編が虫の話でした。元は人だった者が虫として何度も転生し続ける「一千年」「かげろう」や、ある理由から何度転生しても半端な生涯しか送れない「斑猫」では、業の深さに思わずぞくりとします。「天竺夜話」は注文されたものとは違う文様を織ってしまう織物師の話。これだけ虫とは関係なく、転生話というより夢話だと思うんですが。
「夢童子」のうち「夢鏡」「夢合戦」「傀儡師」は、夢の中で生きているような帝の弟宮・春鶯の宮が登場するもの。特殊な能力のため変わり者と思われてるけど、実はキレ者かもしれない春鶯の宮、いいですね~。1冊丸ごと彼が活躍する(眠ってる?)本が読みたいです。若い海女が夢の中で異国の皇子と逢瀬を重ねる「海女部」は、ロマンティックで切ない。
「斑猫」と「夢合戦」には共通する悪役が登場し、その不気味な存在感が良いスパイスとなっていました。
パロル舎と言ったら児童書のイメージが強いのですが、本書のような妖しい雰囲気たっぷりの作品も扱ってるんですね。
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仮面幻双曲
06/07/27 (木) 18:10

大山誠一郎「仮面幻双曲」小学館
評価:★★★★
時は戦後間もない昭和22年。製糸会社社長・占部文彦は双子の弟・武彦から殺人予告を受け取る。武彦は整形手術で顔を変えており、その行方も今の顔も知ってる者はいない。文彦は私立探偵の川宮兄妹に身辺警護を依頼するが、兄妹が寝ずの番をする部屋の中で刺殺されてしまう。
地方の名家で起きた惨劇ということで、金田一ものを髣髴とさせる正統派本格ミステリです。事件のあらましを綴っている間は、非常に退屈でした。ところが謎解きショーが始まると一転、今までは何だったの?と思うほど面白い! 伏線がどんどん回収されていく様子は爽快です。
とにかく「双子」を最大限に利用したことはお見事。双子を扱った数ある本格ミステリの中でもピカイチでしょう。舞台をこの時代に設定した理由にも納得です。事件の構図も想像していたより複雑だったんですねぇ。ラストも綺麗に纏まってると思います。
フーダニットものとしては絶賛したいのですが、小説全体の雰囲気作りに物足りなさを感じたことは否めません。戦災から復興しつつある時代独特の雰囲気がもう少し伝わってくるとよかったのですが。また、伝承を掘り下げることで、もっとおどろおどろしさを演出してもよかったかも。良くも悪くも犯人当てに徹したという印象です。
とは言え、今後が楽しみな作家さんであることには間違いありません。本格離れのミステリ界には頼もしい逸材です。川宮兄妹が解決した衣笠家の事件も気になりますが、次は現代ものを書いて欲しいなぁ。
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風街物語 完全版
06/06/30 (金) 16:03
井辻朱美「風街物語 完全版」アトリエOCTA
評価:★★★★★
魔法使いルッフィアモンテによって創られた≪風街≫。ありとあらゆる風が流れ込むこの街で起きる幻想的かつ不思議に満ちた物語。
すっっっごく面白かったです! こーゆー話大好き!! 1編1編は短いにもかかわらず、頭の中ではどんどんイメージが広がっていくんです。
≪侏儒の塔≫、チェスの平原、妖神たちの小路、≪夜≫の山脈、紫煙小路といった、好奇心をくすぐるような場所が次々に出てくるので、風街に行ってみたくてうずうずしてきます。主人公(?)のマーチ博士、商売上手な標本屋・フィガロ、謎の指物職人・マルコなど、キャラクターも魅力的です。
「マーチ博士の備忘録」は不思議の宝庫(「刺青」では星新一さんのSSにあったキャベツの刺青の話を思い出しちゃった)ですし、夢の殻を拾い集める「夢の掃除人」はうっとりするほど美しいし、他の話も心惹かれるものばかり。中でも私が最も好きなのは「珈琲の魔物」。華奢で美形の魔物が、美味しい珈琲を入れてくれて一緒に飲んだり、珈琲かすで占いをしたり、珈琲の湯気を竜の形にして見せたり、最後にはカップを洗って後片付けまでしてくれるんです。まさに至れり尽くせり。こんな魔物がいたら、珈琲党になっちゃうかも♪ いや、いっそ「紅茶の魔物」を探す旅に出ようかな~。
安江恵美さんの装画も作品にぴったりな雰囲気なのに、Amazonにもbk1にも書影がなくて残念。
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屍鬼
05/09/14 (水) 13:51

小野不由美「屍鬼 全5巻」新潮文庫
評価:★★★★
三方を山に囲まれた人口1300人余りの外場村。ある夏、それは村の中で密かに進行していた。日々増え続ける謎の死。新種の伝染病なのか? 洋館に越してきた一家との関連は?
怖い怖いという噂と長さに、しばらく読むのを躊躇ってました。が、実際読んでみると全く怖くないし、長さも然程気になりませんでした。読了した後まで糸を引くようなねっとりした恐怖を想像していただけに、一つの山村が死に侵されていく様子が淡々と描かれていることに拍子抜け。さすがに最終巻になると、今まで抑えていたエネルギーが一気に爆発しますけど。それより、登場人物が非常に多いために、人間関係を把握するのが大変でした。最初のうちこそ人物相関図を書きつつ死者をチェックしていましたが、人物も死者も多過ぎるので途中で相関図作成は諦めました(^^ゞ
一度死を迎えた者が起き上がり、屍鬼となります。誰も襲いたくない気持ちと飢えとの葛藤、生前の柵から解放されても真の自由を手にできない苛立ち、人恋しさ・・・身体は人外のものと成り果てても、心は人のままであるところが非常に切ないのです。また、村で起きていることを解明しようとしていた静信と敏夫が別の道へ進む瞬間に、律子と徹のやりとりに、そして村を出られなかった夏野に、やりきれない切なさが残りました。
神に見離された孤独に苛まれ、僧侶でありながら神への拘りを見せる静信。彼を通して真のテーマを訴えているようですが、静信には感情移入できず終い。私が共感できたのは敏夫でした。人としてどうなの?な敏夫の行動も、医者としては当然でしょう。前例がない以上、自分で調べるしか他に方法がないんだもの。敏夫寄りの視点に立つと、静信はやはり異端者なんですよね。人間と屍鬼が相容れないように、静信の心理を理解するのは私には無理でした。
屍鬼側の計画も用意周到のようでいて、結構杜撰。村を乗っ取るにしても、闇雲に屍鬼の数を増やすのは得策とは言えないなぁ。
人間にしても屍鬼にしても、とにかく心理描写が秀逸。屍鬼の心理については既に書いたとおりですが、人間、特に子供を思うあまりの母親の心理には、鬼気迫るものがありました。屍鬼よりこの母親のほうが怖いかも。
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黄昏の百合の骨
05/08/18 (木) 13:27

恩田陸「黄昏の百合の骨」講談社
評価:★★★★★
祖母の死によって留学先のイギリスから帰国した水野理瀬は、遺言により「魔女の家」と呼ばれている洋館・白百合荘で暮らしている。血の繋がらない二人の叔母、梨南子と梨耶子と共に。そこに、祖母の一周忌のため、従兄弟の稔と亘も帰省してくる。祖母の遺言――「自分が死んでも、水野理瀬が半年以上ここに住まない限り家は処分してはならない」――の意図するものとは?
純潔の象徴でありながらどこか官能的でもある百合の香りが漂う中、祖母の死の真相、小動物の怪死、少年の失踪、祖母の遺した「ジュピター」、そして白百合荘の謎・・・といった様々な謎や事件が次々と理瀬に降りかかります。
「木曜組曲」同様、故人の存在感が非常に大きく、生きている者への影響力も衰えていません。そんな祖母が遺した「ジュピター」という言葉は何を意味しているのか。遺産だと信じて凄まじいほどの執着心を見せる梨耶子、梨耶子から情報を引き出そうとする稔、何も知らされないことに疎外感を抱く亘、何を考えているのか分からない梨南子。一つ屋根の下で腹の探り合いが繰り広げられます。誰が何を知っているのか分からず、理瀬でさえ精神的に参るほど。しかし、読む側にはそれが非常に面白いのです。(ま、所詮は他人事ですから) 「ジュピター」が指し示すものはすぐに分かってしまったので、捻りが無いなぁと思ってました。ですが、それは単なる入り口に過ぎなかったのです。とにかく最終章は急展開、且つ衝撃的で、全ての謎が一つに収束する瞬間は爽快でした。(読後感のすっきりしない恩田作品を続けて読んだもので、尚更そう感じました) しかし、祖母があんな遺言を遺してまで「ジュピター」を理瀬に託したのは何故か、という疑問が残ります。どう考えても理瀬一人の手に負える代物ではないと分かっているのに。
亘、稔、雅雪、ヨハン・・・魅力的な男たちに囲まれた理瀬が羨ましい。でも、後半の亘にはがっかり。前半の彼は結構いい感じだったんですけどねぇ。ったく、男のくせに泣くなよ(^^;) 初登場の雅雪は、黎二に似ているというだけで特別な存在に思えてしまいます。住む世界の違う雅雪に仄かな恋心を抱く理瀬がなんとも切ない。彼女にも光の当たる場所で年相応の恋をさせてあげたいなぁ。と思う一方で、「麦の海に沈む果実」(レヴュー)では語られなかった、ヨハンとのエピソードにときめいてしまいました。
理瀬の邪悪さは彼女の魅力であり武器なのですが、まだまだ未熟。少女時代とも訣別したことですし、邪悪さにより磨きをかけて、もっともっとイイ女になって欲しいわぁ。ヨハンとの将来がとっても楽しみ!(このシリーズで一番好きなキャラがヨハンなのです♪)
それから、理瀬の父親のトランスジェンダーの原因が判明。かなりの変人と思われるので趣味でやってるのかと思ってましたが(笑)、それなりの理由がちゃんとあったんですね。
読了して印象に残ったのは、女性の強かさや冷酷さでした。悪に魅入られた女たち、即ち現代の魔女たちの物語と言えそうです。もしかしたら、女性は誰でも魔性の女になる素質を持ってるものなのかもしれません。
そう。善など悪の上澄みの一すくい。悪の魅力に比べれば、早朝の儚い霧のようなもの。(P.286)
本書を読むに当たっては、「麦の海に沈む果実」(中学時代の理瀬。他の登場人物は黎二、憂理、ヨハン、理瀬の父など)は勿論、「睡蓮」(「図書室の海」所収。幼年時代の理瀬が白百合荘で暮らしていた頃の話。稔、亘、理瀬の父も登場してます)、「水晶の夜、翡翠の朝」(「殺人鬼の放課後」所収。理瀬は出てませんが、ヨハンがどういう立場にあるのかよく分かります)を先に読んでおいたほうがgoodです。
そういえば、「三月は深き紅の淵を」については全く触れられてませんでしたね。完全に独立した話になったってことでしょうか。
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MAZE
05/08/04 (木) 17:20


恩田陸「MAZE」双葉文庫
評価:★★★★
辺境の地に、中に入った人間が消えると言われている遺跡がある。地元の人間からは『存在しない場所』『有り得ぬ場所』と呼ばれていた。その白い建物(『豆腐』)の中で何が起きているのかを調査すべく、4人の男たち――アメリカ資本の製薬会社に勤める神原恵弥(めぐみ)、恵弥とは中学時代のクラスメートで現在はフリーターの時枝満、USアーミーのスコット、現地人のセリム――がやってきた。
いやー、神原恵弥が面白い! オネエ言葉なので、台詞だけ読むと近所のおばちゃんみたいです。でもその言葉は、端正な顔をした男性の口から発せられてるんですよね。ううっ、想像しにくい。恵弥はアメリカでもオネエ言葉なんですかね? (ていうか、英語にもオネエ言葉ってあるのか?) そして、40歳前後の男がスヌーピーのパジャマを着てるなんて・・・もう最高(笑) (色は青でよかった。もしピンクだったら間違いなく引いちゃってました(^^ゞ) その一方で、腕っぷしは強いらしいし、頭の回転は速いし、一筋縄ではいかない狡猾さもあるし、となかなか侮れない人物のようです。
満に課せられた仕事は、“消失の法則”の解明。“消失トリック”の解明ではなく、“消失の法則”の解明というところに興味を惹かれました。謎が提示され、素人とは言え探偵を雇っているので、今度こそ正統派ミステリなのかと期待していたのですが・・・私の読みが甘かった。長編としては短い(254ページ)作品の中で、ミステリ、ホラー、SF、幻想小説、etc.とジャンルがころころ変わるんですねぇ。著者の作品には、一つのジャンルでは括ることが出来ず、多様な面を持つものが多いですが、本書はその典型です。
主要登場人物が“4人”、作中における時間の経過が“1週間”、旅先での“非日常”というのも恩田作品らしい。4人組の1週間というと「ネバーランド」が、4人組の非日常な旅では「黒と茶の幻想」が、それぞれ思い出されます。
途中から流れが変わるところや、あれれ?なラストも含めて、この「MAZE」は著者らしさが非常によく出ている作品だと言えそうです。
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ネバーランド
05/07/31 (日) 15:48

恩田陸「ネバーランド」集英社文庫
評価:★★★★★
冬休みを男子校の古い寮で過ごすことになった少年4人の、クリスマス・イヴからの1週間を描く。
多感な少年たちが秘密を共有することで絆を深めていく、青春小説です。
主人公は、冬休み中帰省せず寮に残った美国、寛司、光浩と、通学組ながら頻繁に寮に出入りしている統。一つだけ嘘を混ぜるというルールのもと始まった懺悔大会で、思わぬ「秘密」が明らかになります。酒の勢いもあるんでしょうが、普段は決して見せない部分を曝け出し共有することで、連帯感が生まれてきます。決して慰め合ったり、甘えたりしてるわけではありません。誰にも言えず苦しんできた4人には、重い荷物を一度下ろし、抱え直すきっかけが必要でした。そのきっかけになったであろう懺悔大会は、充分意義のあるものだと思います。
毎晩のように酒盛りしてる4人ですが、若者らしく爽やかにテニスで汗を流すシーンも。寛司と美国のマジ対決は、月とLのテニス(「DEATH NOTE」3巻)を思い出しましたよ。そのあと、コートに寝転ぶシーンなんて、まさに青春ど真ん中!
恩田作品では学園物が一番ですね。女子校出身の私には男子校の実態は知りませんが、それでもかなり美化してあるなぁとは思います。しかし、リアリティを追求するよりも、素直に雰囲気を楽しみたい、そう思わせる作品でした。
4人がどんな大人になってるのか見てみたいので、続編希望。
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図書室の海
05/07/27 (水) 21:00

恩田陸「図書室の海」新潮文庫
評価:★★★
水野理瀬の幼年時代「睡蓮」、関根夏が登場する表題作、「夜のピクニック」の前日譚「ピクニックの準備」など、10編が収められた短篇集。
SF、ホラー、ミステリ、シリーズものの番外篇と雰囲気が異なる作品を一度に楽しめます。ただ、全体的に小粒かなーって思ってしまいました。
「睡蓮の下には・・・」という文章が印象的な「睡蓮」。理瀬は子供の頃から独特の雰囲気を纏っていたんですね。
「ある映画の記憶」で引用されてる推理小説(P.111)は、アーロン・エルキンズの「古い骨」。「麦の海に沈む果実」にも、モン・サン・ミシェルと思われる記述があったし、あの風景に何か思い入れでもあるのでしょうか。
「図書室の海」では、「耳をすませば」を思い出しました。関根夏の魅力が期待していたほど感じられなくて残念。いつか夏を主役にした長編も読んでみたいものです。
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ユージニア
05/07/27 (水) 17:26

恩田陸「ユージニア」角川書店
評価:★★★★
32年前の夏、北陸の古都K市にある青澤医院で、17人が毒殺される事件が発生。事件は容疑者の自殺で終結した。それから約10年後、青澤家の近所に住んでいた小学5年の少女が、大学生となり事件を小説化、ベストセラーに。そして今、再び事件について調べている人物が・・・。
当時の関係者へインタビューし、質問部分を省いた返答のみを記す、という形式が中心となっています。話の中から浮かび上がってくるのは、青澤家でただひとり生き残った盲目の少女・緋紗子の存在。聞けば聞くほど、彼女の神秘性や小悪魔的な魅力が浮き彫りになっていくのです。本人を直接描くのではなく、回想シーンや証言を繋いで人物像を形作っていく方法を、著者はよく使っています。「木曜組曲」での重松時子しかり、「黒と茶の幻想」における梶原憂理しかり。緋紗子像もそうして読者の中に植え付けられていくのですが、今までと違うのは、イメージが完成に近づいてきたかと思った途端、破壊されてしまったこと。積み重ねてきたものが一気に崩れると不安になるものです。それ以外にも、本書には読者を不安にさせる要素がいっぱい。プロローグの大きさの違う紙。斜めになった本文。闇の中にある事件の真相。もやもやした気持ちで最後のページを迎えるのは、なんとも気持ちの悪いものです。読了して頭を整理しようと思ったら、気になることが出てきました。新たな謎が生じて、さらにもやもや。うーん(^^ゞ
気になること・その1
インタビュワーが手紙を受け取ってから検証を始めるまでの間が、約20年も空いているのは何故?
手紙の差出人が亡くなって20年近く経ってます。手紙を書いたのは当然彼が亡くなる前。つまりインタビュアーが手紙を受け取ってから20年前後経ってるわけです。なのにその間は何もせず、今になって動き始まったのは何か理由があるのでしょうか。インタビュワー本人にもおっとびっくりな正体を期待していたので、拍子抜けでした。
気になること・その2
第一章「紅い花、白い花」と第十四章「海より来たるもの」を読み比べると、歩いた場所、偶然会った人、その人物と話した内容から、同じ日のことだと分かります。しかし、双方には微妙な食い違いがあるんです。
第十四章では、「たまたま、単身赴任中の夫のところへ寄ったついでに降りてみたのだ」(P.415)、「自分がなぜこんなところに降りたのか、正直よく分からなかった」(P.416)とありますが、第一章ではインタビューを受けているんです。あの場所で会う約束をしていたわけではないのでしょうか。
それから、第一章では雨の描写があるのに対し、第十四章にも、第十二章「ファイルからの抜粋」の公園側からの手紙を見ても、雨のことは一切触れられていません。
第一章は、もしかして彼女の死後に書かれたもので、インタビュワーによる創作? インタビュワーが突然行動を起こしたきっかけは、彼女の死なのかも?
どこか幻想的な雰囲気は好きなんですけどねぇ。なんだかもう、考えれば考えるほど、蟻地獄に嵌っていくような気がします(^_^;)
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